俺はアグリ。何故かこの世界で勇者となった。そして魔王討伐の旅に出ている。で、今はその旅の途中なのだが……「このワシに立てつくとはいい度胸しておるのぅ」容姿端麗で見た目は美しいが終始高圧的な態度の女性が、容赦なく敵を蹴散らしていく。「さすが、ねえさま。素晴らしいですわ」現代で言えばゴスロリ風というのだろうか……そういう服を着ている、まだ容姿としては幼い女の子がうっとりした目をしている。「おいどんにも残しておいてくだされ」強面で筋骨隆々ないでたちの男性が、肉体をこれ見よがしに見せながら敵をなぎ倒す。「もう少しスマートに出来ないものですかね。私のように」執事風ですらっとした体系の男性が、そう言いながら華麗に敵を倒していく。「暑いわ。いややわ。わっちの肌がヒリヒリしてきたわ」後方で素肌を眺めながらのんびりと構えている女性。出るところが出て、引っ込むところは引っ込む、所謂物凄くグラマラスな女性だ。そのスタイルがわかる姿は、目のやり場に困る感じだ。……と、なんだろう。この状況は。みんながみんなだいぶ好き勝手にやってくれている。「おい、お前ら! やりたい放題やって、さっきの話はどうなった?」終始高圧的な態度をしている女性が攻撃をやめて、睨みかえしてきた。「さっきの話とはなんじゃったかのぅ……忘れたぞ 目の前に敵がいるなら堂々と蹴散らすのみじゃ」なんでこう話を聞かないのか。「なぁ、ゾルダ。 敵を倒すのはいいんだけど、もっと自重しろっていったよな。 辺り一面火の海じゃん」終始高圧的な態度を示す女性の名はゾルダという。「これでもワシは自重しておるぞ。 周りが脆いだけじゃ」そしてこのゾルダ。実は元魔王である。「ゾルダの自重は自重になっていないんだって。 後々から言われるのは俺なんだからな」そう、勇者である俺のバディでもある。そして他の4人も元四天王でゾルダの部下である。今はこの5人と共に魔王討伐の旅に出ていたのだった。俺も何故元魔王たちと一緒にいるのか不思議だ。勇者には勇者の仲間がいるのが普通だが、今の俺の仲間と言えるのはこの元魔王と元四天王だ。勇者が元魔王の力を借りて現魔王を倒しに行く。自分で言っていても訳が分からない。それにこいつらは本当に元魔王だし、元四天王なのだ。魔族だし、人の常識にあてはめ
俺は岩城亜久里そこそこ働いて、そこそこ遊んで、そこそこの生活をして過ごしている。どこにでもいそうな普通のサラリーマンである。フツーが一番。目立つのは面倒である。今日も通勤電車に揺られながら出勤する。そして自分の役割だけはこなす。定時になったら、目立たぬようにそろっと帰る。人付き合いもそこそこで、深すぎず浅すぎずの友人関係や仕事関係を保っている。深入りしてトラブルになるのは避けたいんでね。社畜と言われるほど会社に奉公している訳でもないし、かといってちゃらんぽらんに仕事をしている訳ではない。ワークライフバランスっていうのかな。何でもバランスって大事よ。今日も与えられた任務完了して、さっさと家へ帰って筋トレして、風呂入ってから、ゲームでもするか。朝の通勤電車の中でそんなことを頭に思い浮かべながら出勤をしていった。~数日後の休日~昨日の夜に動画を見ていたら、海ではしゃいでいるシーンがふと目に留まった。まだ夏には早いけど、今日は休みだし、一人で海へ行ってみるか。愛車の軽自動車に最低限の荷物を積み、海へと向かう。そういえば、最近あまり遠出はしていなかったな。インドア派だし、そんなに外へ出なくてもね。家でゲームしたり、動画見て過ごせる。外に出る必要性は感じないけど、たまには外に出なくちゃね。窓を開けると海風が心地いい。しばらく走っていると足跡もない白い砂浜が見えてきて、テンションがあがった。近くに車を止めると、ビーサンに履き替えて、海へと突っ走っていく。「冷たっ」さすがに海の水は冷たく、思わず声が出てしまう。しばらく波打ち際を歩いていたが、少し先の海の中が一瞬何かが光ったように見えた。「なんだろう」光が気になり、その方向に近寄っていく。すると、潮の流れが急に早くなったのか、足が引っ張られる。片方の足で踏ん張ってはみるものの、引っ張る力は強く、なかなか抵抗が出来ない。みるみるうちに、海の中へ引きずり込まれてしまう。もがけばもがくほど苦しくなる。「もうダメかも。このまま死ぬのか……」そのまま意識が遠のいていった。はっと目が覚めると、そこは見覚えがない天井だった。周りを見回す。石で作られた壁や柱。天蓋付きのベッド。見たことがないものが並んでいる。ベッドから起き上がり、窓際に行く。閉まっていた窓を両手
………………………………ふと気がつくと、薄暗いところだった。周りには古めかしい鎧や兜、書物や宝石だろうか。そういったものが置かれている。……………………ここでワシは何しているんだ。身体を動かそうとするが、全く動かない。「ここはどこなんだ。 そういえば、ワシは何をしていたんだ」……………………たしか、ゼドがワシのところに来て、勇者を討伐したと勇者の剣や防具を持ってきたんだったかな。そして、その剣を鞘から抜いたら……その後、どうだったかな……ゼドの不敵な笑みだけは思い出せるが……そういえば、ここもワシが知らんところだ。そしてなんで身体が動かないのだ。ワシはどうなっているのだ。立っているような感覚はある。目も見えているようだ。キョロキョロと周りを見回す。左奥の方に光るものが見えたぞ。鏡だ。視線を鏡に向けてみた。?剣が映っているではないか。あれ?鏡はこっちを真っすぐ向いている。こっちはワシがいる方向だよな。??!!!!!「何じゃこりゃ」剣になっているではないか。そういえば……ゼドが持ってきた勇者の剣とやらを抜いた直後にまぶしい光が出てきて……あやつはワシを嵌めおったのか。あれは封印の光か。だからあんな笑みを浮かべていたのか。してやられた。四天王どもはどうなった。そういえばあの時に姿はなかったな。…………………………たしか剣と共に兜や鎧などもあったような。であれば、ワシと同じくそれらに封印されたのか。そうとしか考えられんな。あの時見た覚えがある兜などはここにはなさそうだ。となるとここにはいなさそうだ。周りの雰囲気からしてもここはワシの城ではないな。あとその時からどのくらい時が経っていたのかも分からんのぉ。今がどうなっているか、何かわかる手段はないのか。あちこち見回してみるが、手掛かりになりそうなものはなさそうだ。そうこうしているうちに、扉のカギを開ける音がした。「ガチャ」数名の兵士が扉を開けて入ってきて、灯りをつける。あれは人間どもだな。……ここは人間の支配する国か。兵士たちが話す声が聞こえてくる。「王様は何を持って来いと話されていたんだ」とある兵士が一緒にきた兵士に確認しているようじゃ。「確か、勇者に渡す武器や防具と仰っていたはずだが」確認
マリアについてくと、バカでかく煌びやかな扉の前に着いた。廊下の天井も高いし、扉も大きくて当たり前か。ここに王様がいるのだろうか。「勇者様を連れてまいりました」扉の前にたったマリアが近衛兵たちに話しかける。扉の前に立つ近衛兵が大きな扉の取っ手に手をかけ、扉を押す。そこには広い大きな間が広がっていた。奥の方のこれまた豪華な椅子に座っているのが、国王だろうか。国王の前につき、マリアが跪く。それと同時に、俺の方に目を送る。あっ、俺も同じことしないといけないのか。慌てて、俺も跪く。「勇者様がお目覚めになりました」マリアがそう告げると、国王が顔を崩す。「よく目覚めてくれた。私が国王のマルクス・アウレリウス八世である。 勇者をせっかく召喚したのに、このまま死んでしまうのではないかと思った」勝手に呼び出しておいて、勝手に殺されてしまったら、かなわない。「貴方が、国王が俺を呼び出したのか?」ちょっとムキになり大声で国王に話しかけた。そして、つっかかるように話す。「正確に言うと呼び出したのは私ではない ただ、私が命令して、召喚の儀式をしてもらったのだ」俺の様子に多少ひるんだのか、弱弱しい声で国王が答える。「勝手に呼び出されて、勇者と言われても困るんだが……」さらにつっかかる俺。国王が困った顔をして話し始める。「確かにそれはわかるが、こちらとしても事情があってな」今の状況を長々と説明しはじめた。纏めるとまず、前任の勇者が150年前に魔王を追い詰めたが、討ち取るまでには至らなかった。勇者たちは深手を負って帰還。その後、しばらくは平和になった。ただ、最近になり魔王軍が攻め込んで来るようになった。魔王に対抗する手段は、この世界にはない。異なる世界から勇者を呼び出すしかない。前任の勇者もそうだった。ということらしい。勝手に呼び出されて、魔王と戦えと言われてもな。でも戻る手段はなさそう。覚悟を決めるしかなさそうだ。「事情はわかった。 こうなった以上は仕方ないのかな…… で、この後はどうすればいいんだ」その言葉を聞いた国王の顔がほころぶ。「そうか。引き受けてくれるか。よかったよかった。 では早速だが、シルフィーネ村に向かってほしい。 魔物が増えてきているとの報告がある。 そこの状況確認と魔王に関する情報を
よし。うまく抜け出せたようだ。しかし、あやつは良くワシを選んでくれたな。なんだか力も少し出てきたような感じだ。「でかしたぞ。よくワシを選んでくれた」とあやつに声をかけてみた。そのまま、ちょっと力を入れてみた。すると、剣の外へ向かって体が流れていく感じがした。「んっ……」なんか首が動く。下も向ける手も動かせるぞ。脚もある。「これは……剣から出られたのかのぉ…… もしや封印が解けたのか?」独り言のようにつぶやいた。そしてワシの目の前には剣を持ったまま固まっているあやつがおる。目を丸くしてこちらを見ている。「何をそんなにこちらを見ておる」あっけにとられた顔をしておるあやつが、深呼吸して話し始めた。「………… おっ……お前は……だっ……誰だ!?」まぁ、ビックリするよのぅ。このワシですらビックリしておるのじゃから。「ワシか? ワシはソフィ……んっうん……ゾルダだ」あやうくソフィアというとろこだった。この名前はどうも魔王らしくなくて困る。改めてワシは言い直した。「魔王のゾルダだ」魔王と聞いてさらに驚いた様子のあやつ。なんとも言えん顔をしておるのぅ。「まっ……魔王!? さっき王様が話していた復活した魔王のこと!?」さらに驚いたのか、剣を離して床に落としよった。今度は剣の中に体が吸い込まれる感覚に襲われる。ふと見ると、天井だけが見えていた。どうやら剣にまた閉じ込められたようだ。封印が完全に解けている訳ではなさそうだ。「おい、おぬし! その剣を持て!」声が聞こえたのか慌ててあやつが剣を持つ。するとまた体が流れていく感じがした。すると、また動けるようになった。どうやらあやつが剣を持っている間だけ、外に出れるようだ。また出てきたワシにビックリしているようだ。「なんで魔王がここにいるんだ?」あやつが慌ててワシに問いただしてきた。…………おっと、そういえば今は魔王ではなかったな。「あそこでじじいが話していた魔王はゼドのことじゃ。 言うなれば、ワシは元魔王ってところじゃな」あやつはまだ状況を理解できておらんようじゃ。ワシへの確認を続けておる。「元魔王? 元だろうが前だろうかよくわからないけど…… で、その元魔王が何故にここに?」そう言われても、ワシも困るのじゃが……適当に話をし
昨日はいろいろとあったな。王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。自分のステータスの見方も。「ステータス、オープン」レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。そういえば、ゾルダが言っていたな。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「ステータスの見方はわかったか? おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」よくある飛びぬけた能力を持って転移する話。その期待をしていたが、不発に終わったようだ。そう世の中うまくいかないよな。「なんだよ~。 よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」ゾルダがキョトンとした顔でこちらを見る。「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」元の世界の話だから、通用しないのは当たり前か。そこでゾルダに元の世界の流行りの話をしてみた。「あっ、こっちの話。 俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、 転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、 無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあってだな。 そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」感心した様子でうなづくゾルダ。「そうなのか…… おぬしの元の世界も面白そうなところだのぅ。 頭に思い描いたものを話として世の中に広めていくのだから」こちらの世界には小説とか物語とはないのだろうか。伝説という感じの話はありそうだけど。「まぁ、そういうことだ。 しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」俺は自分を納得させるように言い聞かせた。「そういうことかもしれんのぅ…… おっ、そうだ、ちょっと待っておれ」ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。「んっ…… でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」ゾルダは何かが見えたようにつぶやいた。「それは、どういうこと?」俺に何かがあるのか?ちょっと期待してしまう。ゾルダは手を当てながら話を続ける。「ワシは完全にではないが、素養というのを見る
さて…… ようやく外にも出れたし、さっさと封印の解き方を探さないとな。よくわからんのは、あやつがこの剣を握ったときは実体化が出来るようじゃが…… 完全に封印が解けている訳ではなさそうじゃ。 あやつが封印を解くカギやもしれん。 どうせまだこの剣からは出られんのだし、しばらくは同行するしかなさそうじゃ。あと、力も完全に出せている感じはしないのぅ。 さっきのあやつの戦いに使った力も、本来ならウォーウルフごときは姿形も残さないはずじゃがのう。 魔力を探知できる範囲も思ったより狭いな。 あやつがある程度強くなる前に強敵に出くわさないといいがのぅ。しかし、さっきの戦いは滑稽だったのぅ。 あやつがいた世界には剣も何もないのだろうか。 この世界は己の身は己で守らんといかんから、年端もいかない子供たちですら武器を使うことを教えられている。 あそこのなんとかっていう王もたぶんそれぐらいは出来ているだろうというところで訓練もせずに放り出したな。 これじゃ魔王を倒す前に、あやつが死ぬぞ。「ゾルダ、この先にはまださっきの狼みたいな怪物はいるのか?」ワシが考え事しているところだというのに、あやつは尋ねてくる。「はっきりと感じるだけでも、数十匹はおるようじゃ。 その先はもっとおるやもしれん」死なれては困るし、死なぬように教えておかんとな。「そんなにいるのか? いつになったら目的の村につくのやら……」あやつがため息交じりにつぶやいておる。 たかがウォーウルフごときで何をしておるのじゃ。「ほれ、そうこうしているうちに、すぐそこに1匹おるぞ」少しは自信を持ってもらわないとのぅ。 魔王のところまで行く前に、旅を辞めかねん。「さっき、レベルが上がって、スキルを覚えたじゃろ。 1匹だし、今度は手助けせんから、1人で戦ってみろ」1対1だし、なんとかなるじゃろ。 出来るかぎり手助けをせずに、強くなってもらわないとな。 こんなところでくたばりでもしたら、ワシの封印が解けないしの。 いざとなったら手助けはしてやるがな。「1人でか……」またボソッとあやつが独り言を言っておる。 相変わらず自信なさげじゃのぅ。「新しいスキル、新しいスキル…… これか。この【スピントルネード】ってやつは……」字のごとくそのままじゃろ。 何を深く考えてい
俺はウォーウルフキングと対峙して苦戦をしていた。それを見かねたゾルダが急に剣から飛び出してきた。「おい、お前、こっちだ。 ワシが相手をしてやるぞ。 ありがたく思え」そう言いながらウォーウルフキングの前に立ちふさがるゾルダ。静寂の中にウォーウルフキングの唸り声が響き渡る。「グルルルルゥ……」五臓六腑に染みわたるような低い声を出しながらゾルダを睨みつけていた。「そう血気盛んにならんでもよいのにのぅ。 うーん、そうだのぅ……お前に30秒くれてやるぞ。 その間に、逃げるなら見逃してやってもよいぞ」ゾルダはニヤニヤしながらウォーウルフキングに語り掛ける。何もそんなに煽らなくてもいいんじゃないか……俺が全然歯が立たなかったんだから、相手はかなり強いんじゃないのか。「ゾルダ、油断するなよ」相手を見下しているゾルダに対して俺は声をかけた。「ほぅ、油断するなよとは誰に言っておるのじゃ。 このワシにか?」そうだよ。だいぶ上から目線で話をしているから足元をすくわれないか心配になる。「いかにも余裕がありそうにしているから、大丈夫かと思って」その言葉を聞いてか、ゾルダがさらに満面の笑顔でドヤ顔になる。「余裕があるから、そういう態度をしておるのじゃ」ゾルダが俺の方に体ごと向いて言い放つ。戦っている敵に対して背を向けているのである。そんな隙を見せたら、ウォーウルフキングが襲ってこないか……と思ったら、案の定襲ってきた。「危ないっ」思わず声を上げてしまう。ゾルダはまだ俺の方を向いたままだ。ウォーウルフキングは爪をむき出しにして、ゾルダに襲い掛かってきた。「おっ、ようやくきたかのか。 こちらに来るということは、逃げる意思はないということじゃぞ」全く振り向きもせずにひらりとかわす。「せっかく時間をあげたのに、逃げずに襲い掛かってくるとは、なかなかの度胸よのぅ。 その度胸を賞賛してあげようぞ」ゾルダがなんか楽しそうだ。にやりとしながら、ウォーウルフキングに目を向ける。息つく暇なく手を出してくるウォーウルフキングだが、全くゾルダにはかすりもしていない。風に吹かれている柳のようにしなやかにかわしていく。「すっ……凄い」あっけにとられてしまった。ゾルダの動きに目を奪われる。そう言えば、元魔王って言っていたけど、本当なのかも
母さんが倒れたらしい。何があったんだろう……「ねぇ、カルムさん、母さんが倒れたってどういうこと?」伏目がちなカルムさんに母さんの容態を確認してみたけど……「私も先ほど初めて聞いたので、なんとも……」普段あんまり物事に動じないカルムさんが動揺している。カルムさんにとって母さんは絶対だしねー。かなり心配なのだろうなー。「そうなんだー うーん…… 母さんも心配だけど……」ちらっとアグリの方を見てみる。アグリはボクの目配せに気づいてくれた。「俺たちの方は心配しなくてもいいよ。 アウラさんのところに帰ってあげなよ」アグリ、そうじゃないって。引き留めてくれれば、ここにいる理由が出来るのに……そう思う反面、母さんの容態も気になるし……葛藤してどうしていいかわからなくなるよー「そういえば、カルムさん。 ボクが帰らないといけないほど母さんは危ないの?」帰ってきてほしいってよっぽどなのかなー。「倒れられた経緯は聞いていないですが、命に別状はないとのことでした」「それはよかったー。 でも、それならなんでボクが戻らないといけないのかなー」命の危険はないなら、なんでボクを呼び戻そうとしているのだろうか……そこがなんか腑に落ちないんだよなー「それでもしばらくは動きが取れないとのことで…… 村長の代理を、フォルトナお嬢様にしてほしいらしいです」「えーっ、ボクが村長代理? 無理無理無理無理むーりー!!」ボクなんかが代理しなくても、他にもっと出来る人いるでしょ!なんでボクなのよー「フォルトナお嬢様のお家は、代々シルフィーネ村を束ねてきているのです。 他の方ですと、人々が納得しないかと……」確かにそうだけどさーそれでも、ボクが代理なんてまだ早すぎるよ。「うーん……」母さんは心配だけど、村長の代理はなー……考え込んでいるとアグリがボクに諭すように話をしてきた。「フォルトナ、村長の代理うんぬんは置いて、アウラさんの様子を見に帰ったら? 命に別状はないとは言え、動けないほどなら大変だと思うよ」それはボクもわかっているよーわかっていても、なかなかと踏ん切りがつかないこともあるんだって。「うーん……どうしたらいいかなー」こんな時にゾルダが割って入ってきて、いろいろと煽ってくれると幾分気も紛れるのにさーさっきから姿を消し
まだゾルダは怒っている……当分は荒れそうだ。いいかどうかは別にして、一応これで騒動は落ち着いたのだと思う。領主であるランボは魔族となり消えた。傍若無人に振舞っていた領主がいなくなったことで、この街は救われるのだろうか。「マリー、申し訳ないけどあの鉱山に一度戻ってくれないか。 ゾルダも、いつまでも怒っていないでさ…… ちょっと付き合ってほしい」ただ落ち着いたとは言え、俺はなんかずっとモヤモヤしている感じが残っている。まずは生贄の儀式で助け出せなかった人たちのもとへと向かおうと思った。「なんでマリーが連れて行かなといけないの?」「悪いとは思うけど、お願い、マリー。 どうしても助け出せなかった人たちを……」「弱い者がどうなろうと知ったことではないですわ。 マリーにはその気持ちはよくわかりませんわ」マリーは文句を言いながらも、鉱山まで連れて行ってくれた。ゾルダはと言うと「もうやってられん。 ワシは剣の中に戻るぞ」と言い残し、剣の中に姿を消した。まだまだ怒りが収まらずというところなのだろうけど……外で暴れるよりかはマシかな。鉱山に着くと生贄の儀式があった場所まで歩いていく。あれほど居た憲兵たちも大半が魔族だったようで、ランボに付いていなくなった。残った憲兵たちはランボたちの恐怖に怯え、仕方なくといった感じだったのかもしれない。人気が少なくなった坑道を歩いていくと、先ほどの大きな空洞に着いた。そこでは何名か救えた人たちと、残った憲兵が、生贄の儀式で犠牲になった遺体を並べていた。「すまなかった…… 救い出せなくて……」そこにいた男の人にそう声をかけた。自責の念が大きく、何か気の利いた言葉は出せなかった。それでも、生き残った人たちは「そんなことないです。 この街は生きている心地がしなかった。 あのまま生きていても死ぬ以上の苦しみがあったのかもしれません。 それを救ってくださったのだから……」「それでも、俺は何も出来なかった……」「何も出来なかったなんて、言わないでください。 確かに多くの犠牲も出しましたが、それでも大半の領民は生きています。 その領民たちの多くがあなたに感謝していますよ」そう言われても何も成せなかった気がする。もっとうまくやれたのではないかと……しばらく遺体の整理を見届けていると、
俺は今、空を飛んでいる。といっても浮遊魔法が使えるようになった訳ではない。マリーに吊り下げられて飛んでいる。ゾルダがランボを追うために一緒に連れてこられている。マリーはぶつぶつ文句を言っている。「なんで浮遊魔法ぐらい使えないの。 マリーがなんでこんなことしないといけないの。 これじゃ、ねえさまのサポート出来ないじゃないの」ごもっともです。それはそれで申し訳ないとは思うが……封印の所為である一定の距離から離れられないんだから仕方ないじゃん。でもさ、こう汚いものを持ち上げる見たなように持たなくてもいいじゃん。もっとしっかり持ってほしいんだけどな……俺、高いところ苦手なんだよね……そういう話はおいて、ランボを追いかけてきたけど、アスビモが登場。どうやらゼドに封印を嗾けたのはこのアスビモらしい。「おい、アスビモとやら! 逃げるでないぞ」ゾルダの怒りは相当なようで、誰の目から見てもその怒りがわかるくらいだ。アスビモが行く方へ先回りをして、足止めをしていた。「私は逃げていませんよ。 もとより戦うつもりもございませんので。 あなたが勝手に戦おうとしているだけではありませんか?」こうなんかいちいち癇に障る話し方をするな。このアスビモって奴は。さらにゾルダの怒りが増している気がする。「お前の意思など知らん。 ワシがお前を倒さねば気持ちが収まらんのじゃ」アスビモは首を振りながら呆れた顔をしている。「ふぅ……仕方ありませんね。 ランボ様は私の大切な商売相手でございます。 私とランボ様はこの場から去らせていただきますが、別のお相手を用意させていただきます」「別の相手なぞいらん。 お前とランボとやらが相手せい」ますます会話が成り立っていないというかなんというか。ゾルダは聞く耳を持っていない。「あの……儂は…… あと、儂のこと『商品』って言ってなかったか……」状況にランボが戸惑っているようだ。ゾルダを相手にしているのを止められていたので、どうしたらいいかわかっていないようだ。「ランボ様、あなた様な方が相手するような方々ではございません。 ここは私の配下にお任せください。 あとランボ様のことは『商品』と言ったのではなく『商売相手』と言っています」アスビモはランボをフォローすると、配下を召喚し始めた。召喚の魔方
「おやおや、これはまた懐かしい顔ぶれで……」このワシに後ろから不意打ちをしおった奴か。なにやら、ワシたちを知っておるようじゃが……「あなたは確か…… アスビモ!」マリーが何か思い出したように、コイツの名前を叫びおった。「アスビモとな……」うーん。聞いたことがあるような無いような感じじゃのう。「マリー様におかれましては、いつも麗しいお姿でいらっしゃいますな。 そして、ソフィア様も、前にも増してお美しくなられたようで」あいつ、ワシの気にしている名前で呼びおったな。「おい、お前! その名前で呼ぶな! ワシはゾルダじゃ」アイツに向かってワシは怒鳴り散らした。「ソフィア……!?」あやつが不思議そうにワシの嫌う名前を言っておる。ここは思いっきりなかったことにしておかないといかん。「そんなことは気にするな。 まずはコイツ……アビスモ? アモビス……」「ねえさま、『アスビモ』です」上手く思い出せんワシにマリーが小声でフォローをしてくれたのじゃ。さすがじゃのぅ。「そうそう、アスビモとやらの話じゃ。 なんかワシらを知っておるようじゃが……」どこで会ったのかサッパリわからんのじゃがのぅ。アイツの口ぶりだと、だいぶ前に会っているようじゃのぅ。「失礼しました。ゾルダ様 私、マリー様が覚えていらっしゃった通り、アスビモと申します。 以前、ゼド様に大変お世話になりました」アスビモとやらはどうやら、ゼドの奴の近くにおったようじゃのぅ。「そうそう、ゼドっちのところに出入りしていた商人ですわ!」マリーが思い出したように、アスビモとやらの話をし始めた。「たしか、『悪魔の商人』と呼ばれていて、どこにも属していない一匹狼と聞いていますわ。 自分の利益になることであれば、どんなことでもすると……」ほぅ、その心意気は悪くはないのだがのぅ。「くくくくっ…… 私の事をそんな言い方しなくてもいいではないですか。 私は最大の利益が出るために動いているだけですよ。 商人の鏡ぐらいに言ってほしいところです」どうやらアスビモとやらは『悪魔の商人』と呼ばれるのは嫌なようじゃな。「そこが問題なのでしょう! 利益が出るなら、どんな手段にも出るという話ですわ。 敵であろうとなんであろうとコロコロ変わる風見鶏ってところですわね」マリーはアスビモ
「儂は魔族になったぞ。 この湧き出る力…… 儂の力に皆ひれ伏すがいい」あのデブ……もといふくよかな魔族になった男は大声でそう言い放っていますわ。あれぐらいの力でよくもあそこまで大きな態度になりますわね。ねえさまの相手ではないんだから。魔族になった男を追ってねえさまと私とあいつと共に鉱山の外へ出てきましたわ。ねえさまはやる気がみなぎっていますわ。これからどのようにあのデブ……もといふくよかな魔族を倒すのかしら。「おい、デブ! 待て、止まるのじゃ。 ワシを無視するな」ねえさまは浮遊しながらもといふくよかな魔族を追いかけていきます。そのためか、あいつやマリーとの距離が離れてしまいます。その距離があるところまで達すると、フッとねえさまが消えてしまいました。「あれ? ねえさまは……」飛んでいた辺りを見回しますが、ねえさまは見当たりません。「ワシはここじゃ、ここ」なんとあいつの近くに立っているではないですか。「ねえさま、どうしたのですか」「封印の影響じゃ。 あやつと遠くなると、近くに戻ってしまうのじゃ。 これじゃ、追いかけられんのぅ」ねえさまは頭を抱えています。「それに、こやつときたら浮遊魔法が使えんときた。 飛ぶやつを追いかけるのは至難の業じゃ」ねえさまはあいつの顔を見ると、ふぅーっとため息をつかれました。「仕方ないじゃん。 なかなか覚えないんだから」あいつもちょっと不貞腐れています。「じゃあ、マリーがこいつを持って、ねえさまの後ろをついて行きますわ」近くにいればいいのであれば、マリーが持っていけばいいだけのことですわ。「マリー、さすがじゃのぅ」ねえさまはマリーの頭を撫でてよしよししてくれましたわ。ねえさまに喜んでもらえて嬉しいわ。「改めて、あのデブを追うぞ」ねえさまはそう言うと、また飛び立ちました。マリーもあいつを捕まえて、ねえさまの後を追います。「ねぇ、マリー。 俺の扱い、雑じゃない?」あいつは首元の服を持ってぶら下げて飛んでいるせいか、揺れが激しく気持ち悪いらしいですわ。そんなことは関係ないので、無視してさっさとねえさまを追います。そしてようやくふくよかな魔族の近くまで追いつきました。「おい、デブ! お前じゃ、お前。 さっさと止まれと言っておろう」ねえさまは前に立ちふさがりふく
どうやらあのデブが生贄の儀式をしておるようじゃ。昔から永遠とは言わないが長い寿命を持つワシらに憧れる人はようおった。人とは弱く儚いものじゃからのぅ。気持ちはわからんでもないが、この儀式は危険度が高すぎる。もっと他の方法もあるはずじゃがのぅ……目の前に広がる儀式の光景を見ながらワシはそう考えていた。ただ手っ取り早いといういか簡単な方なのではあるのは確かじゃ。人がこの方法を選択するのはあり得ん。たぶん裏で何者かが手引きをしておるな。「よし、俺が止めてくる」あやつが目の色を変えて敵陣へ突っ込もうとして息巻いておる。「もう半ば儀式は終わっておる。 今から行っても儀式は止められんのぅ。 諦めろ、おぬし」集められた人々は生気がなくなり、ぐったりと倒れこんでおるものも多い。あそこまでいくと、もうほぼほぼ魂の類は持っていかれているのぅ。まだ耐えておる奴らもおるが時間の問題じゃ。「でも……」あやつは何か言いたげにワシの方を見てくる。「今からおぬしが言っても、多くを助けられんぞ。 良くて数人じゃ。 そんなことより、どんな魔物になるか、まずはここで見届けようぞ」そうじゃ。たかが数人の命じゃ。さしたる違いはないのぅ。「…… いや、それでも俺は行く。 全員が無理でも、少しでも助けられるなら。 それが命の重みってことだよ。 魔王のお前からすれば、無力な命かもしれないけど」あやつはそう言うと、戦闘態勢を整えはじめた。この世は弱肉強食じゃ。強くなければ生き残れん。弱い奴らは強い奴の糧になるのじゃ。この生贄の儀式だって、そういうことじゃ。助かるものも少ないなかで、危険を背負ってでも助けに行く。あやつの行動は理解できぬ。そんなことを考えておったのじゃが、それに気づいたのか、あやつがワシにこう言ってきおった。「ゾルダが俺の考えを理解しなくてもいい。 わかってくれとも言わない。 たぶん、多くの人も、この状況なら、こんな無謀なことはしない」人としてもそう思うなら、なぜおぬしは助けに行くのじゃ……「でも、俺には少しだけど助けられる力がある。 その力で助けられるなら助けたい。 一人でも多く助けられるのなら」その弱き一人のために力が強い者が全力で臨むなんてどういうことじゃ。おぬしの考えは本当にわからん。頭の中にグルグル
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止